大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 平成5年(ネ)248号 判決

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人らは控訴人に対し、一億円及びこれに対する昭和六〇年一一月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(四)  (二)、(三)つき仮執行宣言

2  被控訴人ら

主文と同旨

二  本件事案の概要

次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目表八行目の「国会の委員会」を「衆議院社会労働委員会」と改め、九行目の「夫」の次に「乙山太郎」を加え、「棄損」を「毀損」と、一〇行目の「及び」を「に対し民法七〇九条、七一〇条に基づき、」とそれぞれ改め、「に対し」の次に「国家賠償法一条に基づき、」を加え、同行から末行にかけての「それぞれその損害の」を「一億円の損害」と改める。

2  同七枚目裏八行目から九行目にかけての「院長」を「乙山太郎」と、同行の「乙山太郎」を「同人」と、一〇行目の「のであるから」を「。よって、被控訴人竹村は」とそれぞれ改め、八枚目表二行目から三行目にかけての「乙山太郎及び原告が被った」を削り、五行目の「乙山」の次に「自身」を、「慰謝料」の次に「三〇〇〇万円についての控訴人の相続分(三分の二)」をそれぞれ加え、「金三〇〇〇万円」を「二〇〇〇万円」と、六行目の「乙山の」の次に「死亡による控訴人の」を、「逸失利益」の次に「の内金」をそれぞれ加え、「金」を削り、七行目の「原告」の次に「固有」を加え、「金」を削る。

3  同九枚目表七行目、一〇行目の各「アメリカ」を「アメリカ合衆国」と、一〇枚目表六行目の「棄損」を「毀損」と、同裏五行目の「同条」を「憲法五一条」と、一四枚目表一行目の「答えて」を「応えて」と、同裏六行目の「保証」を「保障」とそれぞれ改める。

三  証拠(省略)

四  当裁判所の判断

当裁判所も控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  各「棄損」を「毀損」とそれぞれ改める。

2  原判決一五枚目裏四行目の「原告の本件訴えは、」を「そのことから控訴人の被控訴人竹村に対する本件訴えが」と、同行から五行目にかけての「にならず、記載に不備はなく、」を「にはならないし、本訴状に民事訴訟法二二四条一項所定の記載事項に欠ける点はない。」と、同行の「被告」から七行目末尾までを「本件発言が憲法五一条の免責の対象となるとしても、同条は実体法上、当該議員が民事責任を免れることを規定したにとどまり、免責の対象とした事項を司法判断の範囲に属しないものとする趣旨とは解されないから、この点についての被控訴人竹村の主張は失当というべきである。」とそれぞれ改める。

3  同一五枚目裏一〇行目の「両議員」を「両議院」と、末行の「問われない」を「問はれない」と、一六枚目表二行目の「『表決』」から六行目末尾までを「『演説』とは、議員がその職務を行なうに当たってなした正式の発言すべてをいい、委員会における『質疑』(衆議院規則四五条、参議院規則四二条)もこれに含まれる。」と、七行目冒頭から同裏八行目末尾までを「本件発言は、昭和六〇年一一月二一日に開かれた第一〇三回国会衆議院社会労働委員会において、衆議院議員であり、同委員会の委員であった被控訴人竹村が、同日の議題であった医療法の一部を改正する法律案について、質疑の一部としてなしたものであることは甲第一号証(第一〇三回国会衆議院社会労働委員会議録第二号)により明らかである。したがって、本件発言は、憲法五一条にいう『議院で行った演説』にあたるものである。」と、一七枚目表二行目の「前記」から六行目末尾までを「右のとおり本件発言が質疑としてなされたことが明らかである以上、憲法五一条の演説にあたるというべきであり、これが当該議題についての質疑として期待される水準にあるかどうか、適切なものであるかどうかといった発言内容の評価とはかかわりはないというべきである。控訴人の右主張は独自の見解に基づくものであって採用できない。」とそれぞれ改める。

4  同一七枚目裏八行目の「避けられない」を「十分予想される」と改め、末行の「議員が」の次に「議院で行なった右のような言論について」を加え、一八枚目表一行目冒頭から二行目の「より、」までを「これを恐れて」と、三行目の「可能性」を「おそれ」と、八行目の「である」を「と解される」と、九行目の「議員の」を「議員が議院で」と、末行の「解するのが相当である。」を「解されるから、議員が虚偽であるのを認識しながら、若しくは虚偽であるかどうかを不遜にも顧慮せずに、又は違法若しくは不当な目的で他人の名誉を毀損する発言をした場合であっても、それが議院で行なった演説等にあたる限り、当該議員は、名誉を毀損された者に対して民事上の責任を負わないというべきである。この点についての控訴人の主張は採用できない。」とそれぞれ改める。

5  同一八枚目裏一行目冒頭から二〇枚目表四行目末尾までを次のとおり改める。

「3 また、仮に本件発言が憲法五一条による免責の対象とならないとしても、本件発言は、国会議員である被控訴人竹村が、その職務を行なうについてなしたものであるところ、公務員がその職務を行なうについてなした不法行為によって国が国家賠償法一条に基づく損害賠償責任を負う場合であっても、当該公務員個人は責任を負わないと解されるから、いずれにせよ被控訴人竹村が乙山又は控訴人に対して損害賠償責任を負うことはない。

したがって、控訴人の被控訴人竹村に対する本訴請求は失当として棄却すべきである。」

6  同二〇枚目表八行目冒頭から同裏二行目末尾まで、八行目の「が、独自」から二一枚目表一行目の「である」までをそれぞれ削り、同行の次に行を改め次のとおり加える。

「しかし、憲法一七条及び国家賠償法には、憲法五一条により国会議員個人が免責される場合に国家賠償法一条一項に基づいて損害賠償を請求するのを制限する趣旨の規定はないし、憲法五一条により国会議員個人が免責されるからといって、論理上当然に国家賠償法一条一項の『違法』の要件が失われることとなるわけではない。そして、憲法五一条の趣旨は、前示(原判決引用)のとおり、国会議員に対して法的責任を免除することによって議員が国会内で自由な言論活動をするのを保障することにあるのであって、国が、国会議員の言論により名誉を毀損される等の損害を被った者に対して国家賠償法一条一項により損害賠償することとしても、これが憲法五一条の趣旨と相容れないこととなるものとは解されないし、国が国家賠償法一条一項に基づく責任を負う場合には、同条二項により当該国会議員に対して求償するのを許さないものとすれば、憲法五一条の趣旨にもとるところはないというべきである。また、被控訴人国は、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償請求訴訟が提起された場合に、当該国会議員が証人義務を負うこととなる結果、憲法五一条が国会議員に認めた最大限の表現の自由の保障が無に帰すると主張するけれども、当該国会議員に前記絶対的な免責特権を認める一方で、一般国民の名誉プライバシー等保護の観点から当該議員に証人義務を負わせたうえで国家賠償請求を許しても、それが憲法五一条の趣旨を没却することになるとは直ちに解することはできない。

したがって、被控訴人国の前記主張は採用できない。」

7  同二一枚目表九行目の「同被告」を「被控訴人竹村」と改め、同裏六行目の「であり」の次に「(右事実は甲第一号証により認められる。)」を加え、末行の「名誉棄損」を「名誉を毀損すること」と、二二枚目表一〇行目冒頭から二三枚目表二行目末尾までを次のとおりそれぞれ改める。

「一般に、名誉毀損行為は、不法行為法理上、公共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときに限り、違法性が阻却されて不法行為とならないものと解されるのであるが(最高裁判所昭和四一年六月二三日第一小法廷判決、民集二〇巻五号一一一八頁参照)、国会議員が議院で行う演説等は、そこで摘示された内容が名誉毀損行為に該当する場合であっても、公共の利害に関する事実に係り、公益を図る目的で行なわれるのが通常であり、仮に右違法性阻却の要件について議員(国)の側で具体的に立証しなければならないとすれば、司法において摘示行為の相当性につき演説等当該議員活動の評価を含め立ち入った解明ないし判断をしなければならないことになり、前示(原判決引用)のように憲法五一条に直接抵触するものではないにせよ同条の精神にもとる事態を招来し、ひいては議院の自律性を損なうおそれがあることを考慮すると、当該演説等が国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為に該当するとして国の損害賠償責任が肯定されるのは、当該議員がその職務や使命と無関係に違法又は不当な目的をもって摘示したとか、虚偽であることを知りながら若しくは虚偽であることを通常払うべき注意義務をもってすれば知り得たにも拘らずこれを看過して摘示したなど当該議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて行動したと認めうるような特別の事情がある場合に限られるものと解すべきである。」

8  同二三枚目表三行目の「被告竹村」から五行目の「同被告に」までを「原審証人亀井浩介の供述内容も、被控訴人竹村が乙山の前記行為についてした発言内容が虚偽であると認めるに足りるものではなく、同供述は、乙山病院での外来者の入院患者との面会手続の実情からして、被控訴人竹村自身が直接に乙山病院を訪問して調査したとは考えられないというにとどまり、そのことから直ちに被控訴人竹村の調査が十分でないとすることはできない。このほかに被控訴人竹村において」と、六行目の「とか」を「など」とそれぞれ改め、同行の「本件」から一〇行目の「かの、」まで、末行から同裏四行目にかけての括弧書をそれぞれ削る。

五  よって、これと同旨の原判決は正当であって、本件各控訴は理由がないから棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例